Man in the Society

身近なことに目を向けるブログ

瀧くんが入れ替わった身体で三葉の胸を揉むのはアウトなのか(君の名は。)

先日、新海誠監督の『君の名は。』が地上波で放送されました。

かくいう私は、当時は映画館で2回見るほど好きでしたし、今回も一部だけ見ました。初めて見たときは「新しいアニメ映画が来た!」と思いましたね。それまでのアニメ映画といえばジブリに代表されるデフォルメされた雰囲気が普通だと思っていたのですが、あの写真的な美しさはとても新鮮でした。素晴らしい映像美です。あとRADWIMPSの曲がものすごくマッチしていて、予告見たときは初っ端からどんどん歌付きの音楽流すのはどうなのかなあと思っていたのですが、実際見たらドはまりしました。

まあ、今回テレビで見て一番驚いたのはCMの「ロゴが入れ替わってる!」でしたが。(電通が頑張ったらしいですね。さすがクオリティが高い。)

 

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さて、本題に入りますと、ツイッター上の『君の名は。』の感想の中で「瀧くんが三葉と身体が入れ替わったとき、三葉の胸を揉むのが気持ち悪い」というものをちらほら見つけました。

togetter.com

詳しく見ると、胸を揉む以外にも、映画全体として「その描写の背後に見える男性(具体的には監督)視点の女性観」を捉えて嫌悪感を感じている人が多いようです。

そういえば、公開された当時にも「女性の表現の仕方に監督のフェチが出ている」といった論評を読んだ記憶があります。

私自身は見ているときは全然気にならなかったのですが、そういった視点で捉えなおすとその感覚も理解できるような気がします。

 

実際、『君の名は。』には性を強調するような表現が多いように思います。ただ、「胸を揉む」といった表現が出てくる作品は他にもたくさんありますが、あまりそういった批判はありません。

他の作品と比べてどういった点がなぜ「気持ち悪い」と感じられるのでしょうか。

 

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『君の名は。』のキー要素はやはり「瀧くんと三葉の人格が入れ替わる」ことですが、この「人格入れ替え」は数多くの創作で取り扱われてきた鉄板ネタです。 

使い古されているとも言える「人格入れ替え」ですが、その表現の肝は「見た目と人格のギャップ」にあると言えるでしょう。

 

性別を強調するような表現が多いことに違和感を持った人も多かったのかもしれませんが、「男女入れ替わり」という作品の性質上、そのギャップを際立たせる手法として性差が強調されるのは仕方ないと思います。

というのも、「入れ替わり」は当事者間のギャップが大きいほど表現のネタが増えるものです。その点、男・女はそれだけで大きく異なります。身体構造もそうですが、「男らしい」「女らしい」と言われる行動もそうです。

男が女の身体で・女が男の身体でコミュニケーションをとると、それだけでどうしても男・女の性別にある暗黙の規範を破ってしまうのです。そこが「違和感」として表現され、面白さに繋がります。*

 

ファンタジー系のぶっ飛んだ人格の持ち主でも登場すれば、男女入れ替わりでも性別以外の要素で十分ギャップを示すことができるでしょうが、瀧くんと三葉の大きな対比と言えば、「男と女」「都会と田舎」くらいです。

『君の名は。』は日常生活路線ですし、男女間の恋愛物語ですから、なおさら性別の要素の比重が大きくなります。

むしろ、男女入れ替わりで性的ギャップに一切触れないのは不自然とも言えるでしょう。二人が入れ替わったとき、たとえば瀧くんが女性の服の着方を完璧に知っていたら、三葉が堂々とトイレをし始めたら、二人に特別な背景でもない限り違和感を覚えるのではないでしょうか。

 

具体的に作中だと、性のギャップが表現されているのは「身体を見る・触る」「トイレで戸惑う」「服の着方で戸惑う・間違える」「身体接触で戸惑う」などでしょうか。

瀧くんも三葉も入れ替わりに気付いた時点で自分の身体を触っています(瀧くんは胸を揉んだり、三葉はあそこを触ってしまったり)。瀧くんはブラジャーを付け忘れてバスケをして男子生徒を沸かせているシーンがあったり、三葉は朝トイレを使うことに憂鬱になっているシーンがあったり。

過激だ!といえるまでのシーンはないと思います。少年漫画や少女漫画にもよく登場するもの表現ばかりです。

 

そもそも論として、こういった「性の表現すること」自体は完全にセーフだと私は思っています。

性の表現は男女入れ替わり系以外でも多くのほぼ全ての作品で登場しています。たとえば人の身体的特徴に興奮したりする描写は、もちろん程度の差はありますが、ジャンル問わず性別問わずよくあるでしょう。「性を表現すること」自体を問題視するなら、登場人物がすべて無機物のアニメしか放映できません。

もちろん公開する場所と観るであろう対象には注意を払うべきですが。

 

 

では何が問題かというと、「表現の程度」です。

『君の名は。』の問題点は、「性の表現がリアルすぎたこと」だと私は考えています。これが「気持ち悪さ」を感じる人が多かった理由ではないでしょうか。

『君の名は。』の作風は非常に写実的です。風景も人物も時代設定も、非常に現実近い形で描かれています。たとえば三葉は、デフォルメされたキャラクターというより、性格も見た目も現実世界にいそうな女の子として描かれていますし、役柄も身近な女子高生です。瀧くんも同じくどこにでもいそうな男子高校生として描かれています。

それゆえ、彼らが身近で共感できる「生身の人間」として無意識に考える人が多いのでしょう。

 

この作品は写実的であるがゆえに「アニメーション」よりも、感覚的には生身の人間が登場する「実写映画」の方が近い気がします。全年齢対象のゴールデンタイムに放送されるような実写のドラマで、女子高生が自分の胸を揉むシーンは賛否が巻き起こるのでは?

この作品は「自分の胸を揉むリアルな女子高校生」を何度も詳細に描写していると一連の流れを捉えることも可能です。それは、「未成年アイドルのセクシーイメージビデオ」のようなものを彷彿させます。そう考えると表現の程度としてはかなりきついです。「気持ち悪い」という感想も理解できます。

 

たとえば男女入れ替わりのエピソードでいえば、大ヒットしている『ワンピース』パンクハザード編でサンジの人格がナミに入る話があります。

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ワンピース 第67巻より引用。ナミの身体に入って喜ぶサンジ

サンジはそれこそ年中発情しているキャラクターです。入れ替わり状態ではあからさまに女性であるナミの身体を楽しもうとしています。とはいえ、この話を読んで『ワンピース』に嫌悪感を感じる人は少ないのではと思います。

おそらくこれは、デフォルメされて漫画として描かれているからです。サンジもナミも、現実離れした「架空のキャラクター」としてしっかり認識することができますし、「胸を触る」のも写実的には描かれていません。ワンピースのキャラクターを「生身の人間」的に捉えることは難しい。なのでまだ「笑える」のです。

 

『君の名は。』も『ワンピース』と同じく笑いのシーンとして胸を揉むシーンが描かれています。しかし前者は現実に近いですから、現実と同じ感覚で観客は感情移入します。現実世界で男性が無断で女性の胸を揉むのは全く笑えませんし、爽やかではありません。

現実では本来笑えないようなことを、ストーリー上「笑い」として描かれていることに、違和感を感じた人も多いのだと思います。

 

また、作品内の女性の描き方は(当たり前ですが)男性目線的です。その点がより「女性が消費されている」といった感覚を引き起します。 

「生身の人間」の女性が男性に性的な目線を通して描かれている、という感覚が作品内の女性を描くシーンに感じ取られ、作品全体への嫌悪感に繋がっているのかもしれません。

 

他の「気持ち悪い」と指摘される箇所も、構造的には同じではないかと思います。

 

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まとめると、

『君の名は。』は男女入れ替わりものだから性を扱う表現が多いのは仕方ないが、作風は写実的だから感覚的に「実写映画」に近く、登場人物を「生身の人間」として共感しやすい。それゆえに現実でされたら不愉快なことを笑いとして処理する表現に違和感を覚えてしまうし、男性の(性的な)目線で女性を表現していると感じる箇所に気持ち悪さを感じてしまう。

というのがこの作品が一部になぜ気持ち悪いと言われるかの私の考察です。

 

 

では結局、瀧くんが胸を揉む表現はアウトなのでしょうか。

私としては、「白よりグレーゾーン」だなあと思います。

途中でも言いましたが、私は性を表現すること自体は否定していないので、胸を揉む表現それ自体は決してアウトじゃないと思います。

「男性から見た女性観」が入り込んでいることは否定できないが、この作品が「女性を貶めているか」と言われると、そこまでは言えない気がする......

でももし「胸を揉む」のをストーリーに入れるとしても、例えば「フレームアウトして三葉の姿を映さず、妹の驚く声だけにする」とかも可能だったはずで、もっと軽くする見せ方は他にもあったはず。

この作品は高校生以上くらいがターゲットでしょうから「胸を揉む」シーンを絶対的に省く必要までは感じられませんが、三葉が最初の頃にガチギレして瀧くんが思いとどまるとか、トイレシーンの詳細を描かないのと同じく煙に巻いておくこともできたはずだし......

 

あなたはアウトだと思いますか?セーフだと思いますか?

 

どちらにせよ、創作である以上作り手の価値観が入れ込まれることは避けられないですし、「この女性の描き方こそがこの作品の良さなんだ!」と言われればもう反論はできないのですが、これを「アウト」と感じる人もいるということも頭の片隅に入れておくのはいかがでしょうか。

 


* 念のため、男らしさ・女らしさといったものを賛美している訳ではありませんし、男性・女性しか認めていないということでもありません。